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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

七

雨戸がビッシリ閉まっていて、高いところに開いている窓から、わずかに日の光が射して来ている、古びた畳の、破れた襖の、この部屋は宵のように暗かった。

そういう部屋の一所に坐った、十九ぐらいのお浦という狂女は、誰が着せたものか振り袖を着ていた。髪も結綿に取り上げられていた。

正気であったその頃には、まあどんなに美しかったろう? そう思われるほど狂気している今も、美しく愛くるしく気高くさえあった。柘榴の蕾を想わせるような、小さい、赤い、ふっくらとした唇は、見る人の心を恍惚とさせよう。

彼女の前に玩具があった。

男の人形が二つあり、その横に長方形の木箱があった。

この箱がすなわち「ままごと」なのである。否「ままごと」の模型なのである。

こう文献に書いてある。

「吉原町に『ままごと』といふ音信物を調へる家ありし由。之れは五尺程の押入小棚様の物出来、その中に飲食物、吸物、さしみ、口取、その外種々の種料より庖丁、爼板までも仕込みあり。花月の夜、雨雪の窓を開けば、忽ち座を賑はすため、権家へ送与して媚を取るの具なるが、大抵七、八両より十四、五両までの値段なりし由」と。