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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

十三

「むッ」

と堪え、丹田臍下に、呼吸を納めて踏みとどまった。

とたんに藪の左裾から、白々とした物象が出た。

(児戯!)と笑って貝十郎、振り返り逆に右裾を睨んだ。

はたしてそこに人気あって、サーッと藪越しに一条を投げた。

十手引き抜き、発止受けた!

ギリギリと捲きついた!

グーッと手繰り、ピーンと刎ねた。

「あっ」

「取ったアーッ、六具の一つ、鈎縄貝十郎取り申したぞ! 一屈折! ご異存あるまい!」

「…………」

無言! とはいえ磅とした殺気! 怒濤! 藪を背に切り込んで来た。

十三

引きかわした貝十郎、薪裾を巡って数間逃げたが、躓いたらしい、地へ倒れた。

してやったりと追い逼った郡兵衛、

「姦物、返すぞ一屈折!」

二尺の刀でグーッと突いた。

と、――

「ワッハハハ」

と笑う声、三間あまりの背後から聞こえた。

「それは合羽じゃ、長合羽じゃ! 平賀源内の発明にかかわる、火浣布(羅紗)でこしらえた雨よけ合羽じゃ。……脱いでそこへ置いたまでよ! ……手をやってご覧ぜ、ご自身の腰へ! ……六具の一つ蘇芳染め三尺、あるまいがな、拙者抜いた! ……これで二屈折取り申したぞ!」

「…………」