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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

湖畔の血煙

一

……さあさあご兄妹出立出立!」

狩り立てるようなこの言葉に、意気込んだのは範之丞であった。

「司馬氏、千万忝けのうござる! そこまでお運びくだされたか、まことにご任侠、幾重にもお礼! ……妹よいざ! さあ行こうぞ!」

「はい」

といったものの織江の心は、疑惑の雲に包まれていた。

(あわただしくて空々しい)

そんなように思われてならないからであった。

さりとてこれといって非を打つべき、的確の難所もなかったので、不精不精に立ち上がった。

「方々」

と又助は玄関へかかると、道場の方へ声をかけた。

「ご出立じゃ、参られい!」

「応」

と答える声があって、十人ばかりの若侍が、ドヤドヤと姿を現わした。

湖畔の血煙

一

一面の枯れ芒、その奥に低い湖面を背負い、引き上げられてある漁船の縁に、股をひらいて腰をかけ、九十郎は待ちかねていた。

(服部兄妹を返り討ちに、お吉も殺して水葬礼、その後で楢屋へ押しかけて行き、どうせ婿入りなど出来ぬ躰、強請って大金ふんだくり、明けるも待たず逐電)

と、こう思って待ちかねているのであった。

十日ばかりの月があって、芒を灰色に湖面を銀に、遠い山々を墨色に、ぼかして朧にかかっていた。