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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

十八

いかんとなれば田沼主殿頭様、江戸より浅間へ参るというに、近道の木曽の街道を通らず、遠道かけて甲州街道より、甲府へ入り諏訪へ入りました。しかるに殿におかれましても、同じ道順をとられました。道中にて田沼様討たんの所存と、愚案いたしましたこの一条……次に……」

「待て待て、いうないうな、一条二条今は不要、過去のことじゃ、聞くにもおよばぬ。聞きたきことは他にある。田沼今回の信濃への旅の、真の目的真の陰謀! これ聞きたい、語れ貝十郎」

十八

「存じませんでござります」

貝十郎は即座にいった。

「存じませんでござります!」

「黙れ、そちこそは田沼の懐刀、機微に参じているはずじゃ。その汝が田沼の旅の、真の目的知らぬなんどと! いわせぬぞいわせぬぞ決していわせぬ!」

「情なきは殿、意外も意外、この貝十郎、殿に対し、お敵対こそいたしましたれ、かつて不信は働かず、虚言申せしこととてござらぬ。しかるにお信じくだされぬとは! ……それに反して貝十郎、逃げ水屋敷の乱闘の際、殿のお手のもの、ただし無頼漢、外伝、新助、勘助なんど、勿体なくも将軍様を手籠めに、担って駈けて行きました際にも、殿のことゆえ彼らに命じ、将軍様を助け参らせて、柳営へお帰しいたすものと信じ、そのまま打ち捨て置きました。