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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

二

別のお神さんがひやかすようにいった。

「ご免くださいまし」

と挨拶をして、町娘はそこを離れた。

それは女勘助であった。

あの夜織江を探して来て、この辺で返辞をする声を聞いた。が、駈けつけて来た時には、織江の姿は見えなかった。

家の方へ人をやって訊ねたところ、帰って来ないということであり、服部家はそのため上を下に、大騒ぎをしているということであった。

(どうも変だ)

と勘助は思い、もう一度様子を探ろうものと、こうして出かけて来たのであった。

お吉という妾の家の前を通り、貸家札の貼ってある家の前に立った。

(化物屋敷とは笑わせるな)

こんなことを思いながら佇んだが、やがて裏の方へ廻って行った。

神棚の祭ってあるお吉の家の茶の間に、九十郎は寝そべっていた。

二

※(歌記号、1-3-28)翼休めよ禿松、茂みにからむ忍び草、

ひょいと胴を膝から外し、お吉は三味線を押しやった。

「あたしゃア玉菊の意気が好きさ」

台から猪口を取り上げて、受け口でひどく仇っぽいが、少し大形の唇へあてた。

「あたしの肌へ灸をすえるんだよ、沢山の色餓鬼に見せてあげようッて、摺り物を配って人を集め、店の女郎を惣仕舞いにし、吸物酒肴本膳まで出し、すえている間半太夫、河東の、二人に浄瑠璃を語らせたっていうが、ご大相もない意気じゃアないか」