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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
六
そこへわしがやって来た。と、扈従して来た貝十郎め、才負けして思えらく、冬次郎ほどの人間が、何んの暢気な遊山旅などに、このようなところへ来ることがあろう、田沼様討たんために来たのであろうと。……そこでさっきやって来たのさ。一つにはわしの様子をうかがい、一つにはわしを拝み倒し、田沼への誅伐を緩和させようとな。……アッハハ藪蛇だったよ。あんなことさえいって来ずば、この地に田沼いようなどと、何んのわしが思うものか」
例によっての懐手、冬次郎は悠々と懐手をしながら、会心そうに薄笑った。
「とかくわしの裏を掻いて、計画齟齬させ後手へ後手へと廻す、小面憎いが好敵手でもある彼奴を、今度こそはどうやら取り詰めたらしいぞ。それもさ自分のかけた係蹄へ、自分の方から引っかかってな」
「殿」
としかし熊太郎は云った。
「落ち目になったと申しましても、まだ権勢の田沼意次、それに公職を空しゅうして、このようなところへ潜行する――あり得べきことでござりましょうか?」
「うむ」
と冬次郎は頷いた。
「疑問一応はもっともじゃ。が、ないとはいわれない。将軍家でさえあのとおりではないか」
「うえさまさえあのとおりと仰せられまするは?」