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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
四
逃げて行くお浦と冬次郎との間を、へだてるように数間のあなたの、中間の闇の中に立ちながら、
「殿が間庭念流の達人でござれば、拙者は小具足腰の廻り、十手捕り縄の宝山流では、いささか名あるものにござる。……何んの易々討たれましょうや!」
「黙れ! 何を!」
と冬次郎、怒りを今は心頭に発し、刀を上段に振り冠り、ジリリ、ジリリ、ジリリ、ジリリ!
駕籠へ駈け寄った女勘助、
「織江様!」
と扉をあけた。
「藻抜けの殻! ……さては逃げたか!」
(どこへ?)
手近に露路があった。
(あるいはこっちへ?)と盲目滅法に、駈け込んで勘助は声高に呼んだ。
「織江様アーッ、織江様アーッ」
呼んで走り、走って呼んだ。
突然答える声がした。
「織江はここに! ここに織江は!」
四
織江はこの時一軒の家の、門口に佇んでどっちへ逃げようかと、思案に耽っていたのであったが、聞き覚えある勘助の声で、「織江様アーッ」と呼ばれたので、思わず返辞をしたのであった。
が、返辞をしたとたんに、――切り合いの場からはかなり距たった地点の、この境地ではあったけれど、四辺何んとなく騒がしく、駈け行く人、駈け来る人の、足の音など慌しいので、この家の人も眼を覚まし、門口の戸を細目にあけて、外の様子を窺っていたらしく、細目に開けられた戸の隙から、糸のように燈の光が射していたが、