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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

「そう百姓が一本気になっては、牧野殿もお困りであろうよ」

同情に堪えないように意次はいった。

いま貝十郎から百姓一揆に関する、詳しい報告を聞いたところなのであった。

「わしは」と意次はちょっと微笑し、「お前に反対をされるかもしれぬが、百姓に対する施政方針は、豆州公と同じなのだよ。つまり松平伊豆守殿とな」

「でござりましょうと存じまする」

貝十郎も微笑していった。

智恵伊豆といわれた松平信綱、彼は農民をこう解していた。「いってみれば油粕のようなものじゃ、絞れば絞るほど油が出る」

だから絞らなければいけないというのが、その信綱の意見なのであった。

「本佐録にはこう書いてあるのう」

ややあって意次はまたいった。

「――百姓は天下の根本なり、これを治めるに法あり、まず一人一人の田地の境い目を能く立て、さて一年の入用作食をつもらせ、その余を年貢に収むべし。百姓は財の余らぬように不足なきように治むること道なりと。……どう思うな?」

「ははあ」

貝十郎はそれだけで止めた。

あんまり馬鹿らしいと思ったからであった。

(治める方はいいだろうが、治められる方はたまらない)

同時に彼は本佐録の話者、本多正信のその意見と、松平信綱の見解とが、徳川代々の執政者の、百姓に対する治法であって、そうして意次その人の治法もそうであることを看取した。