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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

十二

「怪しと見たればかけて(ペテンにかけて)止めたのじゃよ」

十二

田沼様が籠っている、その方へ向かってこんな深夜に、忍術衆の風をした人間が、忍術の歩行で走って行く。怪しと睨んで止めたのは、貝十郎としては当然と云えよう。

「かけてと、黙れ、無礼の奴! 止めるだけの任ある汝なのか! いや汝でもあるまい!」

「任ある者じゃ! 与力じゃよ!」

「与力? 与力で宝山流を?」

(はてな?)というように郡兵衛は云った。

「では、もしや貴殿には?」

「江戸の与力じゃ。与力じゃよ」

「では、……もしや……十二神?」

「ご存知か……貝十郎じゃ」

「…………」

無言! 一足ソロリと下がった。

指を反らせ、踵を上げ、土踏まずの先蹠で、一足下がった時息を吸い、蹠地面へ着いた時、吸った息を静かに吐く。――いわゆる「無足の術」なのであるが、これで郡兵衛は一足下がり、つづけて数間引き下がった。

(いい機会、討って取ろう!)

こう決心したのであった。

宝山流の使い手で、器量人ではあるが、田沼の隠密、浪人にとっても苦手の人物――そういう意味において貝十郎のことを、彼は以前から知っていた。そうして昼のうち冬次郎様から、その貝十郎田沼を守護してこの地にあることを聞かされた。