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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

寝もやらず冬次郎と熊太郎とが、燭台の横に向かい合っていた。

村娘ふうに姿をやつし、田沼方の様子をさぐろうと、単身出て行って帰らぬ勘助、田沼の寝首掻かんものと忍術衆姿に身を鎧い、出かけて行った高阪郡兵衛、二人の安危心もとなく、案じて二人とも寝ないのであった。

と、遠々しく戸の開く音がし、外伝と新助の声らしい声が、同じ方から聞こえて来たが、間もなく絶えてひっそりとなった。

二人はちらりと顔を見合わせた。

しかし何ともいわなかった。

荒廃した豪農の家であった。

作男、作女、婢女、寄食人――大家族主義の典型的に、以前は大勢の人々が、ここの家にもいたのであったが、打ちつづいた天災に家計衰え、一人去り二人去り人々去って、今はわずかに肉親だけが、主屋の片隅の一劃に、住居しているばかりであった。

で、幾十となく作られてある部屋の、幾筋となく作られてある廊下の、館のような大屋敷は、夜に入ってはひときわ寂しく、化物屋敷さながらに、陰々としてい、滅々としていた。

不意に二人ながら燭台の火を見た。

百目蝋燭の燃え尽きるには、まだまだ十分の余裕があるのに、焔がにわかに今にも消えそうに呼吸づきながら痩せたからである。