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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

元の座敷へ一旦帰り、地袋から朱塗りの雪洞取り出し、火を点じて廊下へ出た。

つづいて冬次郎も刀をひっさげ、廊下へ出て熊太郎と並び、広い廊下を奥の方へ進んだ。

と、行手から足音が聞こえ、こっちに向かって近寄って来た。

「殿」

「戸ヶ崎」

「こちらへこちらへ」

左側の部屋の襖をあけ、二人ながらはいって襖をとじた。

それとも知らぬ曲者であろう、襖の前を通り抜けようとした。

踴り出て熊太郎グッと一あて! 他愛なくぶっ倒れた。

「殿、燈火を! ……や、清三郎めか!」

燈火に浮き出して気絶しているのは、熊太郎の弟子の清三郎であった。

厠などへ行っての帰りらしい。

二人は苦笑し顔を見合わせた。

「熊太郎こやつが曲者か?」

「滅相もない、こいつは馬鹿で。……今も曲者は奥へ奥へと、進み行きおりますでござります」

「追おう。が、清三郎は?」

「うち捨て置きましても夜の冷気で、蘇生りますでござります」

二人は廊下を奥へ進んだ。

と、廊下の左側の部屋の襖が一枚開いていた。

「戸ヶ崎これは?」

「ともかくもはいって……」

はいった二人はギョッとして立った。

抜き身が畳に突きさしてあり、雪洞の光に刀身輝き、虹をさえ吹いているではないか。