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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
女の姿は見えなかった。
(ではわたしたちの眼違いだったかしら?)
なおあちこち見廻している時、盆地を巡っている丘の脈の、彼方にあたって喊声が起こり、すぐに数百人の人の群が、丘の頂きへ現われて、盆地へ向かってなだれ下りて来た。
槍、竹槍、長脇差、大鎌、鋤の類を、日光にギラギラ光らせた、浪人と百姓との群であり、高手小手に縛めた三人の男を、中に囲んで走って来た。
顫えながら雨戸を閉じ、お吉は範之丞の側へ走り帰ったが、
「伊織様大変一揆の群が!」
「一揆の群が! ……ではまた憂き目を!」
範之丞は叫んで立ち上がった。
その袖を控えてお吉も叫んだ。
「隠れられるだけは隠れましょう! 奥へ! 奥へ! ともかくも奥へ!」
骨ばかりになっている襖や障子、畳はなくておおよそは板敷き、その板敷きも破れ腐ち、縁の下から熊笹や雑草が、板敷きの上まで延びていた。
それでも幾間か部屋はあった。
二人は奥の部屋へ走って隠れた。
一揆の先頭に立っていたのは、甲州浪人の山県大蔵で、抜き身の槍をかい込んでいた。
「そやつどもを引き据えろ!」
この大蔵の言葉に応じ、口々に罵り猛りながら、一揆の衆は三人の犠牲者を、丈なす枯れ草の中へ引き据え、一同はそれの周囲を囲み、ある者は焚火をし、ある者は武器を振り廻しある者は昂奮にただグルグルと盆地を四方へ駈け廻っ