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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
その屋敷の廊下と来ては、巾広く紆余曲折し、全体の長さ半町はあろうか? そんなようにも噂されていたが、意次が御殿から帰宅するや、その廊下を埋めるようにして、進物の品が並んでいた。
そういう権勢の意次の生活、それと比べてこの北佐久の、百姓の生活はどうであったか? 親子六人飢餓のために、枕を並べて死んだ家、死馬を食い、犬を食い、猫を食い、鼠、蛇、あらゆるものを食いつくし、十数軒をもって形成されていた、浅間山麓奥地にある、硫黄谷附近の一部落が、一人残らず死に絶えたという事実。――実にそういう有様であった。
これを見た時九十郎は、
(この貧富の甚だしい差異は、とうてい人為的方法などで、平等化されるものではない。天意だ、宿命だ、業だ、運だ!)
こう思わざるを得なかった。
人為でどうにも出来ないものを、どうにかしようとして真剣になって、一揆を指揮する馬鹿らしさ――それも最初から食えるなら行こう、行って何んでもやろうといって、食うために一揆衆に加入したまでの、彼九十郎は一揆に加わっても、真面目に働こうとはしなかったのであった。
だから真面目に働いて、一揆をどうにか成功させ、その百姓の辛苦の一部を、除去いてやろうと苦心惨憺、指揮する山県大蔵の行為が、彼には馬鹿らしく見えるのであった。