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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
二
五本!
ダ、ダ、ダ、ダ!
五人の武士の抜いた刀が、地を蹴る烈しい足音とともに、黒頭巾の武士へ殺到した。
抜き合わせて切ったか?
いや逃げた。
踵を返すと黒頭巾の武士は、一散に竹屋の渡しの方へ逃げた。
それを追いかけて五人の武士が、迂濶にも半町ほど走った時、川に面した堤の斜面から、三人の人影が躍り出て、素早く駕籠を取り巻いた。
二
一人は博徒、一人は若衆、そうして一人は町娘であった。
顫えている駕籠舁きを揶揄するように、
「ねえ、怖かったでござんしょうねえ」
と、こういったのは町娘で、提灯の火に映って艶かしい、赤い袖口から腕を抜き、簪で鬢を掻くようにしたが、
「もう怖かアありゃアしないよ。……そうさ、わたし達のいうままになれば。……駕籠かついでわたし達についておいで」
「へい」
と先棒は顫え声で、
「どこへなりと参ることは参りますが……でも、この駕籠は田沼様へ……」
「来い!」
と気忙しく一喝したのは、博徒風の男であり、
「こう従いて参れ」
と穏かにいい、堤から耕地へ下りたのは、美貌の若衆武士であった。
間もなく三人に守られた駕籠が、今は提灯も吹き消され、星空の下暗い耕地を、黒く走って行くのが見られた。