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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
五
こうなるとまことに万々歳なのじゃ。というのは一ツ橋家斉卿は、大腹中で濶達のお方、ただし思い切って派手なご性質、この点少しく心にはかかるが、どっちみち田沼意次なんどの、掣肘を受けるお方ではなく、桑名侯松平越中守様とは、日頃から懇親気心も合い、暗々裡に通ずる点あるとのこと。で本丸に直られたら、越中守様田沼に代わり、ご老中筆頭になられるは必定。と、お政治が正しくなる、いくらか世間がくらしよくなる。……ところでそうなると田沼めは、いよいよ手も足も出ないことになる。そこでどうやら田沼めは、将軍家ご他界の一刹那に、武力弾圧(クーデター)をやるらしいのじゃ」
「…………」
「そうして彼自身偽造の遺言――将軍様ご遺言をふりかざし、西丸様を弾劾し、京師五摂家の公達一人を奉戴して十一代将軍とし、自身は大老となる心算とか。……越中守様そう申されたよ」
「とするとあたかも北条氏が、源氏の子孫を根絶やしとし、公卿の子息を将軍に立て、自身執権となりましたと同断! ……」
「その通りじゃ。それをやる気なのじゃ」
「恐ろしき陰謀にござりまするな」
「その陰謀をさまたげるには、真の将軍家のご遺言状を、こっちの手へしかと納めねばならぬ」