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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

「お浦※(感嘆符疑問符、1-8-78) お浦※(感嘆符疑問符、1-8-78) ままごと狂女のお浦※(感嘆符疑問符、1-8-78) ……やア、やア、やア、そこにいるはお浦か※(感嘆符疑問符、1-8-78) ……でかした! 九十郎! 帰参許す! ……貝十郎オーッ」

と嬉しさのあまり、意次は廻廊の板敷きの上で、躍り上がり躍り上がり、

「それそれお浦を、そちに預ける! ……例の将軍様のご遺言状を! ……吟味いたして取り上げよ! ……その上にてお浦を不愍ながら……」

一刀両断にする手真似をした。

「はっ」

というと貝十郎は、廻廊から庭へ飛び下りた。

「お浦!」

「お兄イ様アーッ、十二神のお兄イ様アーッ」

と、お浦は袂をひるがえし、走りよるとひしとばかりに、貝十郎へ抱きついた。

それを貝十郎は抱きしめ抱きしめ、

「よくぞ、無事で! ……それでもよくぞ! ……」

この間も表門の方角からは、門を叩く音、閧の声、罵声や怒声が聞こえて来た。

「九十郎」

と意次は憎々しく、その物音の方を睨んだが、

「帰参の手始めに、そち二、三人暴徒の輩たたっ斬れ!」

一揖した九十郎が裾たくし上げ、刀の鯉口くつろげて、表門の方へ走って行く姿が、星空の下に魔物めいて見えた。