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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
二
「何んだ詰まらない、そんなことか」
「殿にとりましては何んでもないことも、与力たる私にとりましては、重大のことにござります」
「十手は持たぬといいながら、与力になっているではないか」
「殿がそのように腹の中で、私を蝸牛の舎として扱かわず、十二神貝十郎として扱かわれる間は、私も与力でおりませねば……」
ここでまた二人は沈黙し、片寄る葉の音がひそやかに聞こえた。
二
「松本伊豆から田沼へ送った、進物駕籠を隅田堤で奪った、その下手人を俺と睨み、駕籠取り返しに来たというのか?」
ややあって冬次郎は詰問するようにいった。返辞によってはとる手段があると、そういった断乎とした決心が、語気の間に現われている。
「取り返しに参ったのではござりませぬ。確かめに参ったのでござります」
答えた貝十郎の声と態度は、冬次郎のそれとはこと変わり、洒々としてい、落々としていた。
「ただ確かめに参ったというか?」
「御意の通り、ただ確かめに。……与力たる身は事件あるごとに、その真相を確かめねば、一つには役目の落度となり、二つには自身安心いたしませぬ」
「駕籠を奪った下手人はわしじゃ。……どうだ貝十郎からめ取らぬか!」