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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

「からめ取ること致しますまい」

「この冬次郎を恐れてか? ……この冬次郎、無位無官じゃぞ!」

「高位高官の人であろうと、罪あれば貝十郎許しませぬ」

「冬次郎に罪ないというか?」

「心お綺麗にござります」

「心が綺麗? が行為は?」

「連れて綺麗にござりまする」

「しからば貝十郎そちに訊くが」と冬次郎は一膝乗り出した。

「なぜこの冬次郎に楯突くか?」

「滅相もない儀にござります」と、貝十郎は胸を反らせていった。

「何んのあなた様に楯突きましょうや」

「なぜ田沼に使われおる?」

「いやこれとても滅相もない儀、田沼様はご老中、私は属吏、たかが与力、ただそれだけにござります。……お町奉行にこそ使わるれ、なかなかもちましてご老中様などに……」

「いうな!」と冬次郎は一喝した。

「田沼の屋敷へ伺候するではないか!」

「時々冬次郎様のお前へ出て、和歌、俳句、戯文につき、閑談いたすことと変わりませぬ」

「…………」冬次郎は貝十郎を睨むように見たが、慨嘆するような口調でいった。「田沼の屋敷に伺候する奴ばら、取り立て数うべきものもないが、ただそちと平賀源内とが、わしには惜しく思われるよ」

「…………」