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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

「そうだそうだこの辺だ」

この時貝十郎がヌッと出た。

「外伝、新助ちょっと待て!」

「や」

「へ」

二人ながら周章てた。

「その話真実か?」

「どなたで?」

「どいつだ?」

「貝十郎だ!」

「ワーイ」

「いけねえーッ」

「助け船だアーッ」

「逃げれば斬るぞ! ……訊くことは一つ! ……その男十手を持っていたというか?」

「へ、へい、お持ちでござりました」

「そうか。……ふうむ。……そうすると彼だな」

考えている貝十郎の、隙を狙って二人のワル、

「それ」

「逃げろ」

ワーイと逃げた。

追おうともせず貝十郎は、星空の下に佇んだが(お浦を二人より奪ったものの、十手を持っていたといえば、おそらく彼であるであろうが、千に一つ間違いあらば、お浦今夜中に帰って来ず、お浦今夜中に帰らずば、織江殿の身の上一大事! これはこうしてはいられない!)

身をひるがえすと貝十郎、田沼屋敷の方角へ、脱兎のごとく走り出した。

老いても強力の意次に、羽掻いじめとなった服部織江、長椅子の上に捻じ倒された瞬間、ピーンと幽かに音あって、扉の錠前おのずと外れ、扉一杯にひらかれた。

「おッ」

意次の驚いたところを、一突き突いてたじろがせ、織江は部屋から走り出た。