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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

と、もう一人のお神さんが嚇すようにいった。

「まあまあ恐うございますこと」

「不意に夜女の悲鳴がしたり、髪を振り乱した若い女が、スーッと雨戸から出て来たりして、とても凄いっていうことだよ」

と、別のお神さんがまた嚇すようにいった。

「まあまあ厭でございますわね」

「借りるなら他の家借りた方がいいねえ」

「それでは他の家を借りることにしましょう」

娘は穏しくそういって、行きそうにしたが足を止め、

「先夜少し向こうの方で、恐ろしい切り合いがございましたわね」

「あったあった大変だったよ」

「あのう、その時武家のお嬢さんが、そこからこの辺まで逃げて来て……」

「へえ、そんなことありましたかね」

「この辺で姿が見えなくなったそうで」

「へえ、そんなことありましたかねえ」

「ご存知ないんでございますか?」

「知りませんねえ、初耳だよ」

「化物に食われたんじゃアないだろうか」

別のお神さんが眉をひそめながらいった。

娘は耳を澄ますようにしたが、

「河東節の水調子、玉菊を弾いておりますのね」

「お吉っつぁんというお妾さんだよ」

「綺麗に弾いていなさいますわ」

「あればっかり弾いているんだもの、上手にだってなるだろうよ」