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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

六

(こんなことをクドクドいうところを見ると、俺はすこうし酔っているかな?)

九十郎はテレてこんなことを思った。

(それもあるがもう一つ、完全に女を捕虜にしてしまった。逃げられるようなことは全然ない。そこでこっちの心がおちつき、相手をからかうという心持ちに、いつの間にかなっているからさ)

(よし、ゆるゆるからかってやろう!)

「織江殿」

と九十郎はいった。

「そなたは兄上範之丞殿と共々、拙者を敵として狙っているそうで、……では見事にお討ちなされ」

提げて来た刀を差し出した。

六

キラリと織江の眼が光った。

刀がある! 眼の前に!

そうして眼の前に敵がいる!

キラリと織江の眼が光った。

が、それは一瞬間で、次の瞬間には織江の眼は、力なく伏せられて膝へ落ちた。

何んたる大胆、狙う女の前へ、刀を差し出して自分は無手だ!

この九十郎のやり口が、織江を圧伏したからであった。

「いかがでござるな、織江殿、拙者を討つことなりませぬかな」

「…………」

「アッハッハッハッ、討てますまいよ」

「…………」

「そなたばかりか範之丞殿にも、拙者を討つことなりますまいよ」

眼を上げて織江は九十郎を見た。