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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

得たりとそいつへつけ込んだのが、忍侯の松平正敏様で、屋敷地を官へ返上したものさ。とはたして将軍家から、その地を田沼殿へ賜わった。ハッハッハッ、どんなものだ、欲しいといえばきっと得られる、ならぬといえば出来ないことになる、これが田沼殿のご勢力よ! その田沼殿仰せらく、桑名侯松平越中守の家臣、服部石見の忰と娘、余が家臣平戸九十郎を、親の敵として狙う趣き、ならぬならぬ討つことはならぬ! ……で、そうなるというものさ! ……だからよ俺は安穏に、逐電もせずに江戸に住み、こんなところにゴロゴロしているのだ。……アッハッハッ、討てたら討て!」

ゴロリと九十郎は寝そべった。

天井を向き傷のある足を、繃帯を見せてピンと立て、両手を頭の下へかい、薄笑いをして眼を閉じた。

織江はそれを見詰めていたが、投げ出されてある刀の方へ、ソロリと膝を押し進めた。

九十郎は眼を閉じている。

織江はソロリと手を延ばした。

抜き打ち!

「敵!」

肩を目掛け、

「これでも討てぬか!」

サーッと一太刀!

「あぶねえ!」

足だ!

足でダーッ!

七

化物屋敷の奥の部屋に、ままごと狂女のお浦がいた。

これが化物の本体なのである。