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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

「あい!」

バタバタと梯子段をかけ下り、上がり框まで来るとヌッと土間に、突っ立っている武士があった。

「お勘か! これはこれは勘助殿か!」

それは十二神貝十郎であった。

「…………」

声も立てられず呼吸を呑み、勘助は立ち縮みガタガタ顫えた。

そういう勘助を見詰めながら、戸外の陽で肩の上をぽっと明るめ、顔を反対に陰にして暗め、貝十郎は前歯を見せて笑った。

「妙なところでぶつかったなあ、お前達の方からいう時は、敵の重鎮九十郎の家でよ」

「えーッ」

と勘助は飛び上がった。

「コ、ここが九十郎の家※(感嘆符疑問符、1-8-78)」

「知らなかったのか、いよいよ変だぞ」

「知りませんでした。ヘー、そうですかい! ……じゃア先刻の武士は……ク、九十郎だったのですか!」

「何んのためにここへ参ったのだ?」

「旦那アー」

と勘助は死に声をあげた。

「お願いでござんす、必死の場合だ、どうぞどうぞお見遁がしを!」

「うん」と貝十郎は頤をしゃくった。

「捕えようと思えば汝ごとき、この貝十郎とうに捕っている。捕らずに今まで助けて置いたは、汝らの主人冬次郎様が、立派なお方であるからよ。その上拙者には詩文の友じゃ。