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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
「てまえどもは住吉の門前で、ご参詣にもよし、座敷の見晴らしも至極よいお部屋がございますが」
それらの者には一顧もせず、そうかといって迎えに来ている知人もないらしく、美少年は小猿をかついで、真っ先にこの湊から姿を消してしまった。
それを見送って、
「何んていう生意気なやつだろう。すこしばかり兵法が出来ると思って」
「まったく、あの若造のために、船の中は半日、みんな面白くなく暮してしまった」
「こっちが町人でなければ、あのままただでこの船を降ろすのじゃないが」
「まあまあ、侍には、たんと威張らせておいてやるがいいさ。肩で風を切っていれば、それで気が済むんだから他愛はない。わしら町人は、花は人にくれても、実を喰おうという流儀だから、今日ぐらいな忌々しさは、仕方があるまいて」
こんなことをいいながら、荷物沢山な旅すがたを揃えて、ぞろぞろ降りて行ったのは例の堺や大坂の商人連であり、そこへは無数の出迎えが、提燈や乗物をあつめ、一人一人に、幾人かの女の顔も取り巻いていた。
祇園藤次は、誰よりも後から、こっそりと陸へ上がっていた。
形容のできない顔つきである。不愉快といって、きょうほど不愉快な日はなかったに違いない。