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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

三

人に知られない恥なら掻いてもよいが、人にわかる恥を重大に思う。

「……じゃあ仕方がない、住吉へ行くから駕を連れて来い」

「乗ってくれますか」

お甲はまた、渡海場のほうへ、駈け戻った。

三

この夕方、船で着く藤次を迎えに行くといって出たお甲は、まだ帰って来ない。その間に、同勢は風呂にはいり、旅舎のどてらに着膨れて、

「やがて、藤次もお甲も見えるだろう、その間、こうしていてもつまらんじゃないか」

飲んで待っていようということになったのは、この同勢として、当然な納まりであった。

藤次の顔が見えるまでのつなぎとして飲んでいたうちはいいが、いつの間にか膝がくずれ、杯がみだれ出すと、もうそんな者はどうでもよくなってしまい、

「この住吉には、唄い女はいないのか」

「きれいなのを三、四人呼ぼうじゃないか。どうだ諸卿」

と、病気が始まる。

(よせ、つまらない)などという顔は、この中には一つもいない。ただ師の吉岡清十郎の顔いろを多少憚るのであったが、

「若先生には、朱実が側についているから、別間のほうへ、お移り願おうじゃないか」

横着な奴らかなと清十郎はにが笑いする。けれど、それは自分に取っても好ましい。