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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
四
藤次は、一体何のために、この年末この同勢が、住吉へなど来ているのかと疑った。お甲にいわせれば自分を迎えに来たのだというが、どこに自分を迎えに来たらしい人間が一人でもいるか、むっとして、
「おい、下婢」
「はい」
「若先生は、どこにいらっしゃるか、若先生のいる部屋へ行こう」
廊下をもどりかけると、
「よう、先輩、ただ今お帰りか。――一同が待っておるのに、お甲などと、途中でよろしくやっているなんて、この先輩、怪しからんぞ」
大トラが立ち上がって来て首の根にかじりついた。たまらない臭気を放つ。逃げようとしたので、トラは強引に座敷へ引きずり込んだ、そして、膳を踏みつけたから形のごとく杯盤狼藉を作って、共倒れに仆れた。
「……あっ、頭巾を」
藤次は、あわてて自分のそれへ手をやったが遅かった。辷った拍子に、トラは彼の頭巾をつかんで後ろへ腰をついていた。
四
「あれ?」
と、奇異な感じに打たれたように、一座の眼は、藤次の髷のない頭にあつまって、
「頭をどうかなされたので?」
「ホホウ、奇妙なお髪」
「どうしたわけでござる」
無遠慮な凝視を浴び、藤次は狼狽に顔をどす赤くして、頭巾をかぶり直しながら、