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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
二
真っ先のが叫んだので、
「どうした?」
次のがいうと、
「もう船着茶屋が床几を重ねておる。川にも船が見えぬ」
「出てしまったか」
弾みあう息を揃えて、どやどやそこに佇んで、しばしは出し抜かれたように川面を見ていたが、店をしまいかけた茶屋の者に訊ねると、たしかに小猿と前髪は乗ったとある。そしてまた、その仕舞い船がここを離れたのはつい今し方で、まだこの先の船着場である豊崎までは、遡っていまいともいう。
それに下りは速いが、上り船は遅々たるものである。陸を走っても追いつきましょうという言葉に、
「そうだ、何もがっかりすることはない。ここで間に合わなかったとすれば、もう急がずともよい、一息入れて行こう」
茶をのんだり、餅や駄菓子などを頬張った上、さてまた、川に沿って暗い道を急ぎに急いで行った。
ひろい暗の彼方に、銀蛇に似た河のすがたが二股に裂けていた。一すじの淀川が中津川と天満川とに岐れるところである。その辺りにチラと灯が見えた。
「船だっ」
「追いついたぞ」
七名は色めき立つ。
枯れ蘆はみな刃もののように光っていた。一草の青いものすらない田や畑であった。霜をふくむかと思われるような風だったが、寒いなどということは考え出されない。