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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
――また、佐々木小次郎は頻りと口笛をふいて、懐中に飼い馴れたれいの小猿を呼んでいた。
口笛を聞くと、小猿はどこからか現われて、彼の肩へとびついた。――ぜひぜひ四条の道場へ来て逗留してもらいたいというので、吉岡清十郎は自分の乗馬を小次郎へすすめたが、小次郎はかぶりを振って、
「それはいけない。私はまだ青くさい一介の若輩だし、貴公はいやしくも平安の名家吉岡拳法の嫡男、門人数百を持つ一流の御宗家だ」
と、馬の口輪を取って、
「遠慮なくお召なされ、ただ歩くより口輪を取って歩いたほうが歩きよい。おことばに甘えて、しばらくのあいだお世話にあずかるとして、京都までこうして話しながらお供いたそう」
傲慢不遜かと思うと、礼儀もわきまえている小次郎だった。――やがて今年も暮れて初春を迎えるとすぐ、宮本武蔵なる人間と出会わなければならない宿題を持つ清十郎は、折からこの小次郎という人物をわが家へ迎える機縁をひろって、何かに心づよい気がして来るのだった。
「ではお先に失礼して、足の疲れたころには代るといたそう」
彼もまた、そう礼儀をして、鞍の上へ移った。
山川無限
一
東国での名人として、塚原卜伝や上泉伊勢守の名が代表されていた永禄の頃には、上方では京都の吉岡と大和の柳生の二家が、まずそれに対立したものと見られている。