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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
程経て、お通が外へ出て来たころには、もう誰もいなかった。炊事をする老婆と、病人の巫女が一室にしんと留守しているだけだった。
「お婆さん、これは誰の物か、心あたりがないのですか」
お通は、そう糺してみた上で、武者修行風呂敷でくくりつけてある大小を下ろしてみた。
うっかり持つと、手から落ちそうに重かった。どうしてこんな重量のあるものを男は平気で腰にさして歩かれるかと疑った。
「ちょっと、荒木田様まで、行って来ますから」
留守の婆やにいって彼女は、その重い物を両手にかかえて出て行った。
お通と城太郎の二人が、この伊勢の大神宮の社家へ身を寄せたのは、もう二月ほど前のことで、伊賀路、近江路、美濃路と、あれから後、武蔵のあとを捜しに捜しぬいた揚句、冬にかかると、さすがに女の山越えや雪の中の旅には耐えかねて、鳥羽の辺りで、れいの笛の指南をして逗留しているうち、禰宜の荒木田家で伝え聞いて、子等之館の清女たちへ、笛の手ほどきをしてくれまいかという話であった。
そこで指南することより、彼女はここに伝わっている古楽を知りたかったし、また、神林の中の清女たちと幾日でも暮してみることも好ましくて、乞わるるままに身を寄せたのであった。