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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

四

「はい」

と、青年らしい下段の返辞をして、

「仰っしゃる通り、御内儀から拝見しただけで、十分、勉強にはなりましたなれど、なお、ここでお目にかかったご縁をもって、鎖鎌についてのご意見でも伺えれば、有難いとぞんじまするが」

「話か。――話だけならしてやってもいい。今夜は、関の宿へ泊るのか」

「そう思いましたが、おさしつかえなければ、ついでのことに、尊宅へ、もう一宿、お許しくださるまいか」

「旅籠じゃねえから、夜具はないぜ。そこの岩公と寝る気なら、泊ってゆくさ」

四

そこへ着いたのは夕刻。

紅い夕雲の下に、鈴鹿山の山ふところの部落は、湖のように明るく沈んでいた。

岩公が先へ駈け出して告げたので、鍛冶が家の軒端には、見覚えのあるいつぞやの女房が子を抱いて出て、父のみやげの風車を子とともに差し上げ、

「ほら、ほら、ほら。父が彼地から帰って見えた。父が見えたろ、父が――」

傲慢の化け物みたいな宍戸梅軒も遠くから子を見て、飴のように相好をくずし、

「ホイ、ホイ。――坊やか」

手をあげて、五本の指を踊らせて見せる。旅帰りだから仕方がないが、この夫婦は、やがて家の中に坐ると、その嬰ン坊と、べつな話で持ち切って、共に着いて今夜の一泊をたのんだ武蔵などは眼中にない。