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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

十

「ウム、そして」

「この坂は通れない。すこし廻りになるが、谷道をわたって、はやく野洲川へこのことを告げ、なるべく遠巻きにしておいてから手を下すのだな」

「なるほど」

「よほど、大事をとらないと、相手は死にもの狂いだ、ずいぶん死出の道づれが出来るだろう。そうしたくないものだな」

三名は、にわかに、

「そうだ、そうしよう」

お通の体を、藪へ引きずりこんで、木の根へくくりつけた上、一度去りかけたが、またもどって来て、彼女の顔へ猿ぐつわを噛ませ、

「これでよかろう」

「よしっ」

そのまま道のないところを歩いて、姿をかくしてしまった。

枯れ木や枯れ葉の保護色の中にじっと屈みこんでいた城太郎は、もうよい時分――と藪の中からそっと首を出して見まわした。

十

誰もいない――往来の者も――渡辺の甥の三之丞ももう見えない。

「お通さん」

城太郎は、藪の中を、おどって来た。彼女の縄目を解いてやると、その手を引っぱって、坂の途中へ、ころげ出した。

「逃げよう」

「城太郎さん……どうしておまえは、そんなところに」

「どうだっていいじゃないか。今のうちだ、はやく行こう」

「ま、待って」

みだれた黒髪や、襟もとや、腰紐などを直して、容姿をつくろっていると、城太郎は舌うちして、