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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
「お洒落なんかしている時じゃないぜ、髪なんか後におしよ」
「……でも、この坂の下へ行けば武蔵様がいると、今ここを通った人がいったでしょう」
「だから、お洒落をするの」
「いいえ、いいえ」
お通は、おかしいほど真面目になって、それに対して弁明する。
「武蔵様にお会いできさえすれば、もう怖いものはないからですよ。私達の難儀もすでに去ったものと、安心して来たものだから……私は落着いているんです」
「だけど、この坂の下で、武蔵様に会ったというのは、ほんとのことかしら?」
「そういって、あの三人と、ここで話していたお方は、どこへ行ってしまったのでしょう」
「いないや」
見まわして――
「変な人だなあ」
と、城太郎はつぶやいた。
しかし、とにかく二人がこうして虎の口から助かったのは、あの渡辺の甥とかいう柘植三之丞のおかげであったことに間違いはない。
――この上でまた、武蔵に会えたならば、なんとその人へ礼をいってよいかなどと、お通の心はもうそんなことまで考える。
「さ、行きましょう」
「お洒落はもういいの」
「そんなことをいうものではありませんよ、城太さん」
「だって、うれしそうだもの」