轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
執拗に、頬をこすりつけてくる。それが無数の針のように痛くて、朱実は顔を苦しめられた。
――息ができない。
朱実は、ただ爪を立てる。
その指の爪が、争ううちに、赤壁八十馬の鼻の穴を掻きむしった。鼻は獅子頭のそれみたいに朱に染まる。けれど八十馬は手を離さない。
鳥部ノ山の阿弥陀堂から、夕闇の鐘は諸行無常と告げわたっている。けれど、こうすさまじく生き過ぎている人間の耳には、色即是空の梵音も、馬の耳に念仏というものである。男女を埋めている枯れ萱の穂は、大きな波をゆり立てるばかりだった。
「おとなしくしな」
「…………」
「なにも、恐いことはないさ」
「…………」
「おれの女房にしてやろう。――いやじゃあるまい」
「……死にたいッ!」
さけんだ朱実の声の余りにも悲痛で強かったので、
「えっ?」
八十馬は、思わずいった。
「……どうして、どうして」
手と膝と胸とで、朱実は体を山茶花の蕾みたいに固くむすんでいた。八十馬はどうかしてこの筋肉の抵抗をことばで解させようとするのだった。この男はまた、こういうことに幾たびか経験をもっているらしい上に、こういう時間のあいだをも楽しむことにしているらしい。