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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「…………」

朱実は顔を横に振った。

青木丹左が人のよい人間らしいことには、彼女も安心しているのである。それに年配も五十を越えているし――。だが、彼女がためらっているのは、彼の住居と称するお堂の汚なさと、彼の衣服や皮膚の垢からにおう不潔さであった。

――だが、ほかに泊るところのあてはないし、また、赤壁八十馬にでも見つかればこんどはどんな目にあうか知れないし――それになお朱実は、身体が熱ッぽくて、気懶くって、はやく横にでもなりたい気がしきりとするので、

「……いいんですか」

階段から上がりかけると、

「いいとも、幾十日住んでいようが、ここなら、誰も怒って来はせんのじゃ」

中は真っ暗である。蝙蝠でも飛びだして来はしまいかしらと思われるほど暗い。

「お待ち」

丹左は隅で、火打ち石をカチカチ磨ッているのだ。どこで拾って来たか、短檠に灯りがつく。

見れば、鍋、瀬戸物、木枕、筵など、ひと通りのものは拾い集められてある。湯を沸かして、これから蕎麦掻きを馳走してやろうといい、七輪の欠けたようなものへ木炭をつぎ、付火木をくべ、火だねを作ってフウフウと火を吹きはじめる。

(親切な人)