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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

二

「栗鼠じゃろ」

と見廻して、

「栗鼠のやつめが、よう食い物を嗅いで来おるでな。……だが、どこにも、何もいはせぬが?」

朱実は、そうっと顔をあげ、

「あれっ、そこに」

「どこに」

浮き腰を巡らして丹左がふとうしろを見ると、なるほど一匹の動物が、仏具も本尊仏もない内陣の欄のうちに、ちょこなんと乗って、丹左の眼が向くと、びくとしたように尻をすくめる。

栗鼠ではない、小猿なのだ。

「……?」

丹左が不審顔すると、小猿は、この人間くみしやすしと見てとったか、内陣の朱の欄をするすると二、三度往復をしてからまた、元のところへ坐って、毛の生えた桃に似ている面がまえをケロリと上げ、パチパチ眼ばたきをしながら何か物でもいいたげな風情。

「こいつ……どこから入って来たのじゃろう、……ははあ、だいぶ飯つぶがこぼれていると思うたら、さては」

さては、ということばが、わかるように、小猿は彼が近づく先に逃げ出して、内陣の裡へぴょんと隠れてしまう。

「……はははは、とんだ愛嬌者じゃわ、たべ物でもくれてやれば、悪戯はすまい。放っとこう」

膝の白い粉をはたいて、鍋のまえに坐り直しながら、

「朱実、なにも怖いことはない。