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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

しかしこの餅の中に、彼は世間というものの味を噛みしめるのだった。

「……おれの正月だ」

焚火の炎に面を焼きながら、餅を頬張っている彼の顔には、何か急に独りでおかしくなったような笑靨が二つ浮いていた。

「いい正月だな、おれのような者にも、五つ切れの餅を授かったところを見ると、天は誰へも、正月だけはさせてくれるものとみえる。――屠蘇は満々と流れている加茂の水、門松は東山三十六峰。どれ、身を浄めて、初日の出を待とうか」

流れの瀬へ寄って、彼は帯を解いた。衣服も肌着も、すべて脱ぎすてて、どぼっと水の中へ体を沈め込んだのである。

水禽が暴れているように飛沫を立てて全身を洗い、やがて皮膚をぎゅっぎゅっと拭いているうちに、彼の背なかへ、雲を破った暁の光がかすかに映して来た。

――と、その時、河原に燃え残っている焚火の明りを見て、堤のうえに立った人影がある。これも、すがたこそ、年齢こそ、まるでちがうが、やはり輪廻にうごかされる旅の人、本位田家のお杉隠居であった。

針

一

いたわ、小僧めが。

お杉婆は、胸のうちで、こう高く喚いた。

欣しさやら、恐さやら、張りつめていた心がみだれて、