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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

また、いつもの気ままが出て、わしを振捨てて住吉から去んでしもうたが、あの子も、後では悔いて、きっとこの京都あたりに、ばばの後を追うていると思いまする」

お通は、そう聞くと、急に、不気味な気もちに襲われた。それだけに、お杉隠居のすすめることばが、道理のように思われるし、また急に、この息子にめぐまれない老婆に、いとしさがこみあげて来て、

「おばば様、ではわたしもご一緒に、又八さんを捜しておあげいたしましょう」

お杉は、砂をいじっている彼女の冷たい手を握りしめ、

「ほんにかいの?」

「ええ。……ええ」

「では、ともあれ、わしの旅舎まで来ておくりゃれ。……ア、ア」

お杉隠居は、そういって起ちかけながら、襟くびへ手をやって、蟹をつかんだ。

七

「ええ、なんじゃと思えば、いやらしい」

隠居が身ぶるいしながら、指先へブラ下がった小蟹を振り飛ばした様子のおかしさに、城太郎は、お通のうしろで、クスリと口を抑えた。

隠居は、気づいて、

「汝か、悪戯したのは」

と、白い眼で、城太郎をねめつける。

「おいらじゃない。おいらのせいじゃないよ」

城太郎は、堤の上へ逃げた。

そして上から、

「お通さん――」