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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「儲けるのはここだ」

無言のうちに、商品は活溌にうごいた。その大部分が、軍需品であることはいうまでもない。

もう庶民の頭には、太閤時代の文化をなつかしむよりも、大御所政策の目さきのいい方へ心酔しかけていた。司権者は誰でもいいのである。自分たちの小さな慾望のうちで、生活の満足ができればそれで苦情がないのだ。

家康は、そういう愚民心理を、裏切らなかった。子どもへ菓子を撒いてやるより易々たる問題であったろう。それも徳川家の金でするのではない。栄養過多な外様大名に課役させて、程よく、彼らの力をも減殺させながら効果を挙げてゆく。

そうした都市政策の一方、大御所政治は、農村に対しても、従来の放漫な切り取り徴発や、国持まかせを許さなかった。徳川式の封建政策をぽつぽつ布きはじめていた。

それには、

(民をして政治を知らしむなかれ、政治にたよらせよ)

という主義から、

(百姓は、飢えぬほどにして、気ままもさせぬが、百姓への慈悲なり)

と、施政の方策をさずけて、徳川中心の永遠の計にかかっていた。

それはやがて、大名にも、町人にも、同じようにかかって来て、孫子の代まで、身うごきのならない手かせ足かせとなる封建統制の前提であったが、そういう百年先のことまでは、誰も考えなかった。