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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

ますよ」

「すると、景気がわるいの何のといっても、やはり町人にかぎりますかな」

「かぎりますとも、気ままでね」

「頭さえ下げていればすみますからな。――その鬱憤はいくらでもまた、金のほうで埋め合せがつくし」

「ぞんぶんこの世を楽しむにかぎりまさあね」

「何のために生れて来たんだ――といってあげたいのがいますからね」

商人でもこの辺は、中以上のところとみえる。舶載の毛氈をひろく敷きこんで、一階級を示しているのだ。

のぞいてみると、なるほど、桃山の豪奢は今、太閤が亡き後は、武家になくて、町人の中へ移っているかと思われる。酒器のぜいたくさ、旅具旅装の絢爛なること、持物の凝っていること、ケチな一商人でも、侍の千石取などは及びもない。

「ちと、飽きましたな」

「退屈しのぎに、始めましょうか」

「やりましょう。そこの幕をひとつ懸け廻して」

と、小袖幕のうちにかくれると、彼らは、妾や手代に酒をつがせて、南蛮船が近ごろ日本へ齎した「うんすん骨牌」というものを始める。

そこで儲けている一つかみの黄金があれば、一村の飢餓が救われるであろうほどの物を、まるで、冗戯みたいに、遣り取りしていた。