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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页

青空文庫

「五右衛門と違って常陸殿はよいお方でございますなあ」

三太夫は機嫌よく頷いて、

「常陸は立派な侍じゃ、器量は五右衛門には劣っているが精神の潔白は類ない。立派な主人を持たせたいものじゃ」

「その常陸殿も今日を限りにこの庵室を立ち出でて諸国修行をなさるとか、私は寂しくてなりません」

「常陸を旅へ立たせるのはこの三太夫の考えからじゃ。譲るべきほどの法術はみんな常陸に遣わした。法術と云うてもその基本は精神の工夫の鍛錬じゃ。精神が一ヵ所に集まって自我を一切忘却し、他物に自身を移した時、そこに法術が現われる。たとえば自分の身を変じて荒鷲に成ろうと思う時には、荒鷲を専念に祈るのじゃ。そして自分を忘れるのじゃ。完全に自分が忘れられた時、初めて荒鷲に化することが出来る。飛行自在を望むならば、肉身の人間を忘れてしまって羽化登仙の風になるがいい。完全に肉身を忘れた時、初めて風になれるのじゃ。常陸は立派な人間であって精神の鍛錬は出来ている。精神の鍛錬が出来ている者は法術を会得することもいと早い。私の持っている大概の法術を彼はことごとく会得した。これからは会得したその術を実地に当たって試すばかりだ、それには漫遊が一番よい。