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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
「おのれ盗人、待ちおろうぞ!」
廊下の向こうに朦朧と、人影歩むと覚えたが、忽ちそこより声あって、
「われは人界の者ならず、盗人などとは無礼なり!」
「人間ならぬその方が、床に足跡をなぜ残すぞ!」三太夫は鋭く云い放す。
「何、足跡を残すとか?」
「かようの事もあろうかと、われあらかじめ床の上に白蝋粉を撒き置きたり」
「や!」と人影はたじろいだ。
「白蝋粉のその上に、武者鞋の跡残ったり!」
「む」と人影は息詰まった。
「血吸童子などとはおこがましや! 汝はまさしく盗人なり! 事もあろうに世に名高き伊那家の奥殿に忍び入り、若き奥方を攫おうとは、盗人も盗人大盗人じゃ!」
「チェ、残念!」と人影は、舌打つ音を響かせたが、「吾を盗人と云わば云え! 切取り強盗は戦国の習慣! われに恥ずるところ少しもなし!」カラカラとばかり大きく笑った。
三太夫も同じくカラカラと笑い、
「五右衛門、術は破れたるぞ!」大音声に呼ばわった。
その声と共に人影は、身に纏った濛気を払い落とし、スックとばかり立ち上がったが、見れば月代長く延び百日鬘を冠りし如く、墨染めの布子、丸絎の帯、鏈帷子肌に纏い、顔面長く色蒼く、鬼気を含んで陰々たる大悪無双の面魂! 誠や後年本朝における三大盗の一人として、太閤秀吉を桃山城の、寝所に刺さんと忍び入り、見現わされて捕えられ、三条河原