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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
邸内は依然として静かである。幽かに風の音は聞こえていたが戸外も依然として静かであった。
こうして時刻が経って行った。夜は徐々として更けて行く……。
この時、お館の方角から鎧甲の擦れ合う音、軍馬の鳴らす蹄の音が幽かながらも聞こえて来た。刻一刻とその物音は邸を指して近寄って来る。黒川の渡しを越すと見えて馬の蹴散らす水音が甚五衛門の耳へも聞こえて来た。やがて騎馬武者は一団となって邸の方へ駈けて来たが忽ちそれが二つに割れた。一手は裏門へ行くと見える。正門に向かった一隊は門の畔で停まったらしい。
門の扉を顫わせて何者か門を打つものがある。
「ご上使でござるぞ! 開門開門!」
こう高らかに呼ばわった。
しばらく邸内は静かである。
と、門を開ける軋り音がギギーと静かに聞こえて来た。
甚五衛門はそれを聞いても微動をさえもしなかった。やはり端然と坐っている。邸の四方を討手の兵に取り囲まれたということも、上使が来たということも知らないかのように静かである。
襖の向こうに足音が聞こえてすぐに襖が開かれた。そこからスルリと辷り込んだのは筋骨逞しい若侍で、キチンと膝に突いた両手の中、右の腕が左に比べて少し長いように思われる。