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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
物凄い狼の唸り声
足もとを見れば木曽川の流れ。頭を上げれば峨々たる山。雪に埋もれた林や森。一鳥啼かず人語なく凄いまでに寂しい木曽街道を彼はノシノシと上って行く。
思えば変化のあったことよ! 苗木城の客分になった事も、ようやく雲助の足を洗って苗木城中浪人組のその一人に加わって天晴れ一働きと思った時坊主之助と名を宣る玄斎とかいう入道に惜しいところで遮られたのも今から思えば一炊の夢のほんの一時の栄華であった。七むずかしい侍生活は真っ平ご免と啖呵を切って城を出ようとした時に大きな三方に山のように小判大判を盛り上げて引出物だと云われた時、何んの雲助にそれほどの宝、必要ござらぬとその中からたった一枚を頂戴して、後をそっくり返したのは今思っても小気味よい……。
はだか武兵衛は心の中で昨日までのことを繰り返しながらずんずん先へと歩いて行く。
どう思っても憎いのは、あの玄斎坊主之助! なつかしいは甚五衛門様! 常陸、山尾、主馬之介殿、とりどり懐しい人達である……しかしこうして昔のままの雲助の身分となってみれば、みんなそれらは夢の夢だ。なんの思い出してよいものか! ……。
武兵衛はそんなことを考えながらズンズン先へ行くのであった。