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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
二人は薄縁に手をつかえ、鳰鳥の前へかしこまった。
「もう大丈夫でございます。あの剛情な長者めも、とうとう根負けしたと見えて、朝から門を開けました。この間にお逃げなさりませ」
「お礼の言葉もござりませぬ」
青黛の青い眼の涼しい六尺豊かの大漢子、三十をすこし越したばかりの、如来衛門は泣きながら、鳰鳥に礼を云うのであった。
「義でないこととは知りながら、一度ならず忍び込み、白萩を奪おうとしましたのは、深い訳があるのでございます。と申しますのはこの私が、藪原長者に対しまして、怨みがあるのでございます。何の怨みかと申しますに、家の怨みでございます。屋敷の怨みでございます。田地田畑、山、林、それらの怨みでございます。私はそれらの家屋敷田地田畑山林を、藪原長者にうまうまと騙り取られたのでございます。私の家の家柄は、長者の家などに比べましては、筋目が正しいのでございまして、あの善光寺の如来様を難波の池から拾い上げた本田善光の後胤とか。それで代々家の長は、如来衛門と名のります。しかるに今より数十年前、零落れ果てた大男が、この藪原へ参りまして、私の父のもとへなど繁々出入りを致しているうち、いつの間にか父を騙着し、父に代って私の家の束ねをするようになりました。