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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
「さよう、お通いくだされます」
「鳰鳥とか云う美しい遊女が、その相手だということじゃが」
「いかにもさようでございます」
「ついては鳰鳥というその遊女を、拙者落籍が致したい」
「落籍?」
と、長者は呟いたが、すぐその顔に嘲笑を浮かべ、
「いと易いことではございますが、落籍の料は高うござる」
「どれほど出したらよろしいか?」
「まず一切で五百両」
「…………」武士は無言で懐中をさぐり袱紗包みを取り出した。それを長者の前へ置き、
「そこに千両入っておる。五百両だけ取るがよい」
「…………」今度は長者が無言であった。武士の顔ばかり眺めている。
「甚だ失礼ではございますが、あなたはどなた様でございますか?」長者は言葉を改めて云った。
「拙者は、福島の木曽殿の、執事を致す花村じゃ」
「ひぇ!」と長者は泡を食って、思わず声を筒抜かせた。それも無理ではないのであった。木曽家の花村甚五衛門と云えば、並ぶ者なき大智者で、木曽三十里の政事を、一身に扱う器量人、主人勝りの武士であった。
「それに」と花村は重々しく、「白髯の立派なご老体は、すなわち、木曽殿、義明公じゃ」
「むー」と長者は唸ったかと思うと、額を畳へすりつけた。