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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
外は朦朧と煙っている。濃く立ちこめた夜霧を通し晩く現われた明月が光を下界へ投げているのだ。
葉末はちょっと立ち止まり四辺を素早く透かして見たが、人目がないと見極めると颯と山の方へ走り出した。林を潜り山骨を攀じ上へ上へと走るのである。三つ目の林を駈け抜けると弛い斜面が現われた。その斜面の行き詰まりに一座の高い大岩がある。その大岩の頂上に「虎狼の宮」があるのである。葉末は一呼吸呼吸を入れると弛い斜面を走り出した。しかしすぐに立ち止まりじっと四辺の様子を窺う。それからまたも走り出す。大岩に近付くに従って彼女の様子は不安気に見えた。やがて彼女は岩まで来た、と石段を上の方へ狂気のように駈け上がる。
「市之丞様お逃げなさりませ! 浮雲うござります、お逃げなさりませ!」
彼女は境内まで辿りつくや否や金切り声を振り絞ったが、ハッと気が付いて四辺を見廻わした。幸い境内には誰もいない。一段高い岩の上に「虎狼の宮」の古風の社殿が厳かに立っているばかりで、木立さえない吹き晒らしの境内には犬の子一匹いないのであった。
「まあよかった」と呟きながら張り詰めた気を一時に弛め葉末は宮の階段に思わず腰を下ろしたが不意にその時社殿の中の狐格子の奥の方から人の笑い声が聞こえて来た。