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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
婦は縁へ茶器を並べ、二人は茶碗を手に取った。畑を越した藪蔭から老鶯が嗄れた声で時々啼くのが聞こえて来る。
二人は静かに相対し長閑に黙っているのであった。
空では雲雀が気忙わしく、ひっきりなしに歌を唄い、千曲川の流れるほとりからは、川を溯る帆船の風にはためく音がする。二人はやっぱり黙っていた。
「一時はどうかと思いましたのに、このように早く全快遊ばし、そぞろ歩きの出来るというのもご武運の尽きぬ何よりの証拠、ほんとにおめでとう存じます」婦はやがてこう云ったが、「それにしてもあの夜血だらけになって、この家の門を叩かれた時の、あなたのむごたらしい様子と云ったら、いまだに忘れは致しません。ただその時には、川の堤で、野武士の群にお逢いなされ、切り結ぶうち誤まって崖から川へお落ちなされ、危く溺れようとなされたのをようやく崖を這い登り、私の家の灯火を、眼当てに辿って参られたと、ただこのようにおっしゃるので深い事情もお聞き致さず、またご身分をもお尋ね致さず今日までお世話いたしましたが、おしとやかな物腰や上品な物の申し振りなど、いずれ由縁あるお身の上とお察し申しておりました。