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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

首を縮め肩を下げ、グッタリとなって寝台にもたれた。

何か口の中でいってはいたが、声となっては出なかった。

いわせず聞かせず見せずという、家治に対する意次の、従来とって来た教育法が、いまだにさすがに威力があって、家治を圧倒し終ったのであった。

意次は部屋を出た。

と、廊下に立っていたのは、公卿姿の貝十郎であった。それから遙か離れたところに、天狗姿の九十郎が、花四天姿の自分の手のものを、五人ほど連れて控えていた。

「貝十郎一緒に参れ」

「は」

二人は歩いて行った。

すぐ後から九十郎がつづき、少し離れて花四天がつづいた。

滑石の円柱が左右に並び、その柱の諸所に、意匠を凝らした小さい篝火が、とりつけられて燃えている廊下は、床は空拭きの寄木細工であり、天井は絵模様の合組であった。

「貝十郎」と意次がいった。「上様には困ったぞ」

「…………」貝十郎は首ばかり傾げた。

「お浦を是非とも出せというのだ。……ああいう女に心を引かれる? 嗜好というものは変なものだな。……出してあげたくてもあの狂人女、とらえられないのだから仕方がない」

貝十郎は少し考えたが、「お浦差し出すでござりましょう」