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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

六

「白須氏、貴殿はあちらへ」

「は」と立ち去ったその後へ、貝十郎はピタリと坐った。

「お浦!」と、非常に力をこめた、たとえば暗示を行う人が、被術者に対していうような、そういう声で貝十郎はいった。「上様に逢わせつかわすぞ!」

「上様へ!」

パーッと眼を開き、その眼へ歓喜の光を漂わせ、金属のような声でお浦はいった。

「上様へ……あッ、あッ、上様へ!」

「お浦、上様へ逢わせてやる! その上様一大事じゃ! ……お浦そちの力を持って、その上様の一大事を! ……よく聞けお浦、わしのいうことを!」

眼を見詰め、気力をこめ、貝十郎は教えるようにいった。

六

「誰であろうと上様に対し、飲み物なんど捧げたなら、そち即座に叩き落とせ! よいかお浦、解ったであろうな?」

ムーッとお浦を見詰めながら、貝十郎は噛んで含めるようにいった。

お浦はコックリ頷いたが、

「誰であろうと上様に対し、飲み物なんど捧げたら、そなた即座に叩き落とせ!」と、貝十郎の言葉を暗誦し、「わたくしが叩き落とすのでござりますね?」と、ハッキリした口調でいった。

眼が澄んで瞳が静止していた。

「そうだ」と貝十郎は力強くいった。