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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
八
九十郎は知らなかった。
九十郎はずっと向こうにある、書院造りの母屋から田舎娘に扮した、見覚えある姿体の若い女が、こっちへ足早に歩いて来るので、疑惑の瞳を注いでいた。
(あの女織江に似ているが?)
「源内」
とこの時意次が云った。
「何をあちこち見ているのだ?」
意次にも自分を狙っている、弁慶の姿が眼についていず、で、源内へ話しかけたのであった。
「建物を吟味しておりますので」
そう云って源内は舌打ちをした。
「どうも心に充ちませぬ」
「立派に出来ているではないか。その方の設計立派なものだぞ」
八
「私にはさよう思われませぬ」
平賀源内は憂欝にいった。
「個々の建物にも不満があれば、綜合の仕方にも不満がござります」
「作った本人の身になってみれば、あるいはそうかもしれぬのう」
意次は頷いていった。
「政治などもその通りだ。思うように執政されることなど、ほとんどないといっていい」
「綜合統一の技量において、私腕の未熟を知り、悲しいことに存じおります」
「ところが他人からそいつを見ると、綜合統一されていて、立派な形をなしている」
「盲人千人に褒められましたところで、私にはうれしくござりませぬ」